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    村上-第五話 特別な依頼

    私のデスクで電話が鳴ったのは、午後の打ち合わせが終わったばかりの時間だった。名前表示を見て、思わず眉を上げる。「二条瑞希」―『ライフスタイル宮崎』の編集者だ。

    「はい、村上です」
    「村上さん、お久しぶりです。二条です」
    電話越しの声は明るく、どこか活気に満ちていた。二条瑞希とは、彼女が本社から宮崎支局に異動してきた際に物件を紹介して以来の付き合いだ。
    「ああ、二条さん。お元気でしたか?青島特集、拝見しましたよ。素晴らしい出来栄えでした」
    少し間があって、彼女が嬉しそうに笑う声が聞こえた。
    「ありがとうございます!実は今回はその後のことでご相談が…」
    二条は1LDKの物件を探していると言った。現在の6畳1Kでは仕事関係の資料で手狭になってきたという。青島特集が予想以上に好評で、関連企画が増え、参考資料や写真、取材ノートが部屋に溢れかえっているのだと。

    「最近は在宅での編集作業も増えて、もう少し広いスペースが必要になって…」
    私は彼女の要望を丁寧にメモしていった。予算、希望エリア、条件。そして会話の終わり際、彼女はこう付け加えた。
    「あ、それと…窓からの景色も大事にしたいんです。いつも目の前のビルばかり見ているので、できれば開けた景色だと嬉しいです」
    電話を切った後、私はしばらく考え込んだ。二条瑞希。『ライフスタイル宮崎』の中堅編集者。彼女が手がけた青島特集は、地元の観光スポットを新たな視点で掘り下げたもので、県外からも高い評価を受けていた。

    「青島か…」
    その時、一つのアイデアが浮かんだ。瑞希にとって青島は特別な場所だろう。彼女のキャリアの中で一つの転機となった特集の舞台だ。もし毎日の生活の中で青島を眺められる物件があれば、彼女にとって理想的な住まいになるのではないか。
    私は窓の外に広がる宮崎の街並みを見つめた。宮崎市内から青島が見える場所はあるのだろうか。通常のデータベースでは「青島ビュー」なんて項目はない。しかし、この条件が彼女の心を掴むかもしれないという直感があった。

    「よし、調べてみるか」
    最近、写真と不動産の融合で新しいアプローチを開拓している桐山なら、この特別な依頼にぴったりだ。彼は建物だけでなく、そこからの眺め、周辺環境を丁寧に調査するようになっていた。
    私は立ち上がり、オフィス内を見回した。桐山は資料を整理しながら、時々窓の外を見ていた。彼の仕事ぶりは、ここ数ヶ月で確実に変化していた。写真を再開してから、彼は物件の見方、伝え方に独自の視点を持ち始めていた。

    「桐山、ちょっといいか」
    彼のデスクに近づくと、彼は丁寧に書類を片付けて私のための場所を作った。
    「はい、何でしょう?」
    私は椅子に座り、先ほどの電話について説明し始めた。
    「特別な依頼がある。二条瑞希という『ライフスタイル宮崎』の編集者から問い合わせがあったんだ。1LDKの物件を探しているそうだ」
    桐山は静かに頷きながらメモを取り始めた。
    「彼女は最近、青島特集を手がけて大きな成功を収めたんだ。雑誌の売上も上がり、彼女の評価も高まった。そして今、資料が増えて手狭になったため、新しい住まいを探している」
    「なるほど」桐山は熱心に聞いていた。
    私は少し身を乗り出した。「彼女は『開けた景色が欲しい』とも言っていた。そこで思ったんだが…宮崎市のリバーサイドで、オーシャンビューの物件はないだろうか。特に青島が見える物件があれば、彼女のキャリアの象徴にもなるし、喜ぶんじゃないかと思うんだが」
    桐山の目に興味の光が灯った。「青島が見える物件…」
    「通常のデータベースでは探せない条件だが、君なら見つけられるんじゃないかと思ってね」私は彼を信頼する目で見た。「最近の君の物件資料は、単なる条件だけでなく、そこでの暮らしの風景まで伝えている。今回の依頼にぴったりだと思うんだ」

    桐山は考え込むように窓の外を見た。「リバーサイドで青島が見える物件…確かに通常の検索では出てきませんね。現地調査が必要になります」

    「時間はある。良い物件が見つかれば、彼女にとって特別な意味を持つ住まいになるだろう」
    桐山は決意を固めたように頷いた。「わかりました。調査してみます」

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