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    桐山-第八話 青島への視線

    「桐山、特別な依頼があるんだが」
    村上の声に、僕は資料から顔を上げた。彼はいつもの落ち着いた表情で僕の机に寄りかかっていた。
    「はい、何でしょう?」
    「宮崎市のリバーサイドでオーシャンビューの物件を探してほしい。特に青島が見える物件があれば最高だ」

    予想外の依頼に、僕は一瞬考え込んだ。宮崎市内から青島が見える物件。一般的な不動産データベースには「青島ビュー」なんて項目はない。条件検索だけでは見つからないだろう。
    「いつまでに必要ですか?」
    「急ぎではないが、良いものが見つかれば嬉しい。これは特別なお客様からの依頼なんだ」
    村上の目に、いつもと違う光が宿っているのに気づいた。僕にとって、この依頼は単なる物件探しではなく、村上からの信頼のしるしのように感じられた。
    「わかりました。調べてみます」

    その日の夕方、私は地図を広げて考え込んでいた。宮崎市から青島が見える条件を整理する必要がある。青島は宮崎市の南、日向灘に浮かぶ小さな島だ。市内から見るには、高さと方角が重要になる。
    まず基本事項を調べた。青島は宮崎市の中心部から直線距離で約10キロ南東に位置する。つまり、物件は南東方向に視界が開けている必要がある。高層階であればベターだが、周囲に建物が少なければ低層階でも可能性はある。

    データベースで「宮崎市」「リバーサイド」「オーシャンビュー」の条件で検索を始めた。大淀川沿いの物件がいくつかヒットしたが、青島が見えるかどうかは不明だった。
    「これは現地調査が必要だな」
    小さくつぶやくと、地図をさらに詳しく見た。大淀川の河口付近、そして永楽町より東側の高台にある物件が候補になりそうだ。次の休日に現地を回ることにした。

    土曜日の朝、私はカメラと望遠レンズ、高度計アプリをインストールしたスマホを持って出発した。最初に向かったのは、大淀川河口付近のマンション群だ。
    最初の物件は10階建て。管理会社に事前連絡していたので、空き部屋を案内してもらえることになっていた。

    「こちらが8階の空室になります」
    管理人さんに案内されて部屋に入ると、窓からは日向灘が一望できた。海は美しかったが、青島は霞んでよく見えない。望遠レンズで覗いてみても、島の形がぼんやりと確認できる程度だった。
    「少し角度が足りないかもしれませんね」
    管理人さんは申し訳なさそうに言った。丁寧にお礼を言って次の物件へ向かった。
    その日は計5つの物件を回ったが、いずれも青島は霞んで見えるか、まったく見えなかった。
    「方向性を変えないと」
    帰り道、もう一度地図を確認した。永楽町より東側の高台。そこならば海への視界がさらに開ける可能性がある。

    翌日。早朝から宮崎市東部の高台エリアを歩いていた。このエリアは住宅街だが、マンションも点在している。地図と高度計アプリを頼りに、標高が高いポイントを探した。

    「ここだ」

    永楽町から東に1キロほど進んだところにある6階建てのマンション。周囲の建物より少し高く立っていた。この物件は現在販売中の部屋はないが、将来的な可能性を調査するために立ち寄ることにした。

    「すみません、不動産屋の者なのですが、建物の階段を見せていただけないでしょうか」
    管理人さんに事情を説明すると、快く了承してくれた。

    「上層階の景色を確認したいんですね。どうぞ」
    非常階段を使って4階まで上がった。廊下の窓から南東方向を望むと、遠くの海に小さな影が見えた。望遠レンズで確認すると、それは確かに青島だった。はっきりとした輪郭が認識できる。

    「これは…」
    僕は思わず声を上げそうになった。5階、6階と上がるにつれて視界はさらに良くなった。特に6階からは、青島の特徴的な形がはっきりと捉えられた。

    写真を何枚か撮り、位置情報と高度を記録した。このマンションには現在空き部屋はないが、同じエリアで同程度の高さがある建物を探せば、同様の眺望が期待できるはずだ。
    その後も調査を続け、結局その日は計8箇所を回った。永楽町より東側の4階以上の物件であれば、多くの場合青島が視認できることがわかった。特に4つの物件からは、肉眼でもはっきりと青島が確認できた。

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